反復着床不全 RIF(Repeated Implantation Failure)

体外受精において、40歳未満の方が良好な受精卵(胚)を4回以上移植した場合、80%以上の方が妊娠するといわれている。よって、良好な胚を4個以上かつ3回以上移植しても妊娠しない場合を「反復着床不全:repeated implantation failure:RIF」という。
Coughlan C, et al: RBM online 2014: 28: 14-38

着床不全の原因、対策

着床不全の原因
① 受精卵側の問題
→ 着床前遺伝子診断(学会の検査許可必要)
② 子宮内の環境の問題
→ 粘膜下筋腫、子宮内膜ポリープ、中隔子宮(子宮鏡、超音波検査)、
→ 慢性子宮内膜炎など:EMMA、ALICE
③ 受精卵を受け入れる免疫寛容の異常
→ 免疫検査(採血で、Th1/Th2 細胞、ビタミンD)
④ 移植内膜の日付のズレ:ERA
⑤ 不育症、内膜が薄い

慢性子宮内膜炎

子宮内膜は受精した胚が着床する重要な場所です。慢性子宮内膜炎とは子宮内膜に持続的な炎症が生じる病気で着床不全や流産のリスクが高まることがあります。約15-20%の生殖補助医療を受けている人々で、反復着床不全(RIF)と診断され、その40-60%に慢性子宮内膜炎があります。また、反復流産の人々にも多く慢性子宮内膜炎が報告されています。

慢性子宮内膜炎の原因は子宮内の細菌やウイルスの異常な活動が原因であるといわれます。それらの病原性の微生物により、子宮内膜に持続的な炎症が起こることによって活発化した免疫システムが、受精卵を攻撃してしまうという可能性が指摘されています。

子宮内腔における細菌叢のバランスが妊娠率や着床率に影響することがわかりました。子宮内には、108種類の細菌が存在し、この中で乳酸菌が多いと着床率や妊娠継続率が高まります。乳酸菌が減少すると悪玉菌が増え、慢性子宮内膜炎を引き起こします。着床率は低下し、流産率も上昇することが報告されています。

乳酸菌は、ラクトバチルス ( Lactobacillus ) 属と呼ばれる菌の一種で、膣内や腸内に豊富に存在しています。免疫力低下やストレスなどの影響で、乳酸菌が減少すると、悪玉菌が増えて子宮内膜炎症や膣炎を引き起こすことがあります。腸内や膣内の乳酸菌を増やし、子宮内の着床環境を整えることで、妊娠率を向上させることができます。

「子宮内フローラ検査」

「子宮内フローラ検査」とは、最新の次世代シークエンサ技術を使用すると、子宮内膜の組織や子宮内腔液を吸引してから細菌の遺伝子を検出し、子宮内の細菌叢を分析できます。そして、分析結果に基づいて最適な薬剤を選択することも可能です。検査結果は2~3週間後に出ます。結果には、乳酸菌(善玉菌)とその他の細菌(悪玉菌)の割合や種類が記載されます。良好な子宮内環境である場合、乳酸菌が占める割合は90%以上になります。一方、乳酸菌が少なく、悪玉菌の割合が多い場合には、まず対象菌種に応じて抗菌薬を1週間内服し、その後は乳酸菌を摂取するとともに乳酸菌の栄養源であるラクトフェリンを2か月間内服します。 
※子宮内フローラ検査は当院の先進医療Aに認められました。

当院が採用したVARINOS社の「子宮内フローラ検査」の情報→→→

乳酸桿菌(ラクトバチルス)膣錠と着床不全

プロバイオティクスⅢ

  1. 製品概要 製品名:プロバイオティクス
    構成菌株:L. crispatus、L. gasseri、L. rhamnosus、L. acidophilus の4種類の乳酸桿菌 ( Lactobacillus )をカプセル化
    特徴:「プロバイオティクスⅡ」+ヒト膣由来の L. crispatus LCR04 = 「プロバイオティクスⅢ」
    *LCR04 は、ゲノム解析で膣環境維持に不可欠な遺伝子を有し、安全性と抗カンジダ・抗ガードネレラ活性が検証済み
  2. 着床不全と子宮内フローラ
    反復着床不全(Repeated Implantation Failure: RIF)
    IVF 等で複数回の胚移植を行っても妊娠に至らない状態
    国内では不妊症例の約10~15%が関与

    子宮内フローラの役割
    健常女性の子宮内膜には主にラクトバチルス属菌が優勢
    酸性環境(pH 4.0~4.5)を維持し、病原菌侵入や炎症性サイトカイン過剰分泌を防ぐ
    フローラが乱れると免疫寛容環境が破綻し、着床障害を招く
  1. ラクトバチルス( Lactobacillus ) 錠の作用機序
    乳酸産生によるpH低下、グルコースを乳酸に代謝し、局所を酸性に保つ
    病原性細菌・真菌の増殖抑制、上皮タイトジャンクション強化
    免疫調節作用、免疫細胞を活性化し、適切な免疫寛容環境を支援
    抗菌ペプチド産生、一部株は、病原菌に対する抗菌物質(バクテリオシン)を分泌

  2. 使用方法参考例
    投与期間:胚移植の2~4週間前から毎晩1回(就寝前)挿入し、移植後も2~4週間継続
    適応: 反復着床不全例、 細菌性膣炎や子宮内膜炎の既往例
    禁忌・注意:膣内に重度の炎症や器質損傷がある場合、膣出血中は一時中止
  1. 副作用
    頻度:1%未満、症状:軽度の膣内かゆみ、灼熱感、全身感染やアレルギーは極めて稀
  1. 抗菌薬併用療法参考例
    ※慢性子宮内膜炎に対する第1選択の抗菌薬療法

① ドキシサイクリン(ビブラマイシン®)Vibramycin Tablets 100mgファイザー 
  用量:100 mg × 2回/日×14日連続
  適応:重症子宮内膜炎や再発性細菌性膣炎
  ポイント:テトラサイクリン系の第一選択として広く用いられる。長期投与で子宮内膜深層への浸透を図る

② メトロニダゾール(フラジール® Fragyl )内服・膣錠併用例
   内服:250 mg × 2回/日×10日
   膣錠:250 mg × 1回/日(就寝前)×10日
   相乗効果:全身+局所高濃度維持で難治性例にも有効
(フラジール効能効果:腟トリコモナス、嫌気性菌感染症、細菌性感染症)
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慢性子宮内膜炎に対する第2選択以降の抗菌薬療法
① シプロフロキサシン+メトロニダゾール(フラジール® )併用療法
用量例:シプロフロキサン®(200mg)×2回/日  フラジール®(250mg)×2回/日
期間:14日間
対象:ドキシサイクリン単独で治癒しなかった症例、CD138陽性が持続する例
日本産婦人科医会の解説では、ドキシサイクリンで改善しない場合の第2選択として推奨されている。
特徴:シプロフロキサシン:広域スペクトラムのニューキノロン系   メトロニダゾール:嫌気性菌に強力な効果
注意点: 腸内細菌叢への影響が大きいため整腸剤併用が望ましい耐性菌出現に注意

② アジスロマイシン(ジスロマック®)療法
用量例:アジスロマイシン 1000mg 単回投与(または250mg×2回/日×3日)
対象:ドキシサイクリン・シプロフロキサン併用療法が無効な例、クラミジア・マイコプラズマ疑い例
特徴:マクロライド系抗菌薬 抗炎症作用もあり、免疫調整効果が期待される
注意点:QT延長など心電図異常に注意 単回投与で済むため患者負担が少ない

📊 治療成績と治癒率(報告例)
治療法 治癒率 出典
ドキシサイクリン単独 約66.7% Johnston-MacAnanny et al
シプロ+メトロ併用 100%(ドキシサイクリン不応例) 同上
アジスロマイシン 約90%(第3選択) 杉山産婦人科
🧠 臨床的補足
治療抵抗性例では「子宮内膜掻爬術」や「子宮内フローラ検査」併用が推奨される。
抗菌薬治療後はCD138再検査で治癒判定を行う。
Lactobacillus腟剤併用により妊娠率が向上した報告もあり。

  1. 併用療法の可能性
    ラクトフェリン配合やオリゴ糖(プレバイオティクス)併用で、抗菌・免疫調節作用を相乗的に強化
    流産・早産予防や妊娠率改善への寄与が期待される

  2. まとめ
    乳酸桿菌膣錠は、子宮内フローラ正常化を通じて着床をサポートする有望な補完療法
    安全性・有効性の報告多数ある一方、着床不全は多因子性疾患のため、全ての人に同じ効果があるとは限りません。ホルモン・免疫・形態学的要因も総合的に評価し治療することも重要
大川産婦人科・髙砂 受付 で購入出来ます。
 1本(一日1粒) 30カプセル(PTPシート1枚10カプセル×3シート)※30日分
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森永ラクトフェリンプラス
含有成分(6粒当たり):
ラクトフェリン:600mg、
ビフィズス菌BB536:30億個、
ミルクオリゴ糖(ラクチュロース):600mg

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ラクトフェリンは多くの哺乳動物の乳に含まれており、ヒトの母乳、特に出産後数日の間に多く分泌される初乳に最も多く含まれているおり、赤ちゃんの健康維持のために必要な成分であると考えられております。また、母乳以外にも唾液や涙、鼻汁など体内の外分泌液、粘膜液、白血球の一種である好中球に存在し、外部から進入する細菌やウイルスからの攻撃を防ぐ防御因子のひとつと考えられています。
その他、ビフィズス菌の増殖、鉄結合能と関連する鉄吸収調節、抗炎症作用、脂質代謝改善作用などの健康を維持・増進する作用が知られています。

ビフィズス菌
善玉菌の代表として知られるビフィズス菌と乳酸菌ですが、ヒトの腸内、特に大腸内では、ビフィズス菌は乳酸菌*の数百倍多くすんでいます。そのため、ビフィズス菌はヒトの腸内に適した菌と言えるでしょう。また、乳酸菌は糖を分解して乳酸を作り出しますが、ビフィズス菌は乳酸に加えて酢酸を作り出します。この酢酸が、おなかの中で重要な機能を発揮します。
ビフィズス菌は乳酸や酢酸といった有機酸を生成し、悪玉菌の増殖を防いで腸内環境を整えさまざまな生理機能を発揮します。特にビフィズス菌が生成する酢酸には強い殺菌力があり、悪玉菌の繁殖を抑制すると考えられています。酢酸はお酢として飲むこともできますが、お酢は消化の途中で吸収されて大腸まで届かないため、大腸での働きを期待するのであれば、大腸で酢酸を生成するビフィズス菌を増やすことが重要です。

ミルクオリゴ糖(ラクチュロース)は牛乳から作られたオリゴ糖です。
ミルクオリゴ糖は人間の消化酵素で分解されない特徴があります。難消化性であることから、食物繊維と同じ働きがあり、腸内環境を良好に保つ効果があります。お腹の中のビフィズス菌が優勢な状態に改善され、アンモニアや腐敗産物を抑制します。

Th1/Th2(免疫寛容の異常)

反復着床不全(RIF)とTh1/Th2バランス、免疫寛容異常の関係

正常妊娠では、胎児や胎盤に対する免疫応答が抑制される必要があります。これは、攻撃性のあるTh1細胞の活性が低下し、免疫寛容を維持するTh2細胞が優位になることによって実現されます。これにより、母体免疫が胎児を異物として排除することなく、妊娠が維持されます。

一方、反復着床不全(RIF)患者では、Th1/Th2バランスが崩れ、Th1細胞が過剰に活性化されることで、胚を異物として認識し着床を阻害することが示唆されています。

Th1/Th2バランスと免疫寛容

  • Th1細胞:細胞性免疫を担い、炎症性サイトカイン(例:IFN-γ)を産生することで免疫を活性化する。
    Th2細胞:液性免疫を担い、免疫寛容を促進し、炎症を抑制する。

正常妊娠
Th1細胞の抑制、Th2細胞優位 → 胎児に対する免疫寛容が成立
反復着床不全・RIF症例
Th1細胞の過剰活性化 → Th1/Th2比の上昇 → 胚に対する免疫拒絶反応 → 着床障害

RIFにおける免疫学的要因

RIFの背景には様々な要因が関与しますが、以下の免疫学的要因が注目されています。
Th1細胞の活性化:IFN-γやTNF-αなどの炎症性サイトカインの過剰産生が子宮内膜環境を悪化させる。
NK細胞活性亢進:RIFでは子宮内NK細胞の殺傷能力が高まり、胚の着床に悪影響を及ぼす可能性がある。
自己免疫疾患:自己抗体や自己反応性T細胞により、胚が攻撃されやすくなる。

免疫寛容の異常と着床不全
妊娠維持には、免疫寛容の獲得が不可欠です。免疫寛容とは、特定の抗原(胎児)に対して免疫系が反応を抑制する状態です。RIF患者ではこの機構が十分に働かず、胚を「異物」として認識し排除することで、着床不全につながると考えられています。

 

治療選択肢-タクロリムス

1. タクロリムス(免疫抑制剤)

  • 作用機序:カルシニューリン阻害 → Th1細胞を選択的に抑制 → Th2優位の免疫環境へ誘導

  • 効果:Th1/Th2バランスの改善により免疫寛容を促進し、着床率を向上させる

タクロリムス投与量(Th1/Th2比に応じた目安)

Th1/Th2比 投与量(1日)
10.3〜13.0 1錠(1mg)
13.0〜15.8 2錠(2mg)
>15.8 3錠(3mg)
 

※ 胚移植2日前から開始し、妊娠判定日まで(計16日間)継続

参考文献: Nakagawa K, Kwan-Kim J, Ota K, et al. Am J Reprod Immunol. 2015;7:353–361

※ 2021年以降、一部施設ではカットオフ値をTh1/Th2比=11.8以上としている報告もあります。

2. タクロリムス以外の免疫調整薬

  • 目的:免疫調整作用によりNK細胞活性を抑制し、胚に対する攻撃を防ぐ

  • 適応:RIFや反復流産例で自己免疫性背景が強い場合

  • 薬剤名 分類 主な作用 使用例・特徴
    プレドニゾロン ステロイド Th1抑制・NK細胞抑制 低用量(5–10mg/日)で使用。副作用に注意。
    シクロスポリン 免疫抑制剤 T細胞活性抑制 タクロリムスと類似。妊娠中の使用報告あり。
    アザチオプリン 免疫抑制剤 DNA合成阻害 自己免疫疾患合併例で使用されることも。
    IVIG(免疫グロブリン療法) 生物製剤 NK細胞抑制・免疫寛容誘導 高価だが、反復流産例で有効例あり。
    ピシバニール(OK-432) 免疫調整剤 子宮内膜局所免疫環境改善 Th1/Th2比が軽度異常の症例で使用。
    アスピリン(低用量) 抗血小板薬 血流改善・免疫調整補助 子宮内膜血流改善目的で併用されることも。
    ヘパリン(低分子) 抗凝固薬 血栓予防・免疫調整補助 抗リン脂質抗体陽性例などで併用。

EMMA、ALICE(慢性子宮内膜炎)

ERA 子宮内膜着床能検査

ERA (Endometrial Receptivity Analysis)