多嚢胞性卵巣症候群(PCOs)
(Polycystic Ovarian Syndroms)
何らかの理由で卵巣の卵胞(卵子のもと)が成長障害が起き排卵しにくくなり、超音波で両方の卵巣で嚢胞(卵胞)が多く認められます。そのため、無月経や月経不順を来します。
ホルモンの検査所見: LHという下垂体から分泌されるホルモン増えるのが特徴です。
FSHは正常でLHが高くなる。血中LH(25mlU/ml以上)、FSH正常値
(LH>FSH比2.5以上)
GnRH負荷テストでFSHは正常反応でLHが過剰反応する。
ゲスターゲン(プロゲステロン投与)検査で第1度無月経を示す。
また、排卵するときに卵胞が突き破る卵巣の外膜(白膜)が厚くなっていることがあり余計に排卵がおきにくくなっているため薬物療法でも効果がない場合は、手術で卵巣の膜をレザーなどで一部とり除き、排卵しやすくする治療法もあります。
なぜ排卵が抑制されるのか? 治療方法は?
卵胞の成長が障害され排卵できなくなるのですが、なぜそのようになるのかはわかっていません。 インスリン抵抗性(肥満など)や内分泌系(視床下部・下垂体・卵巣・副腎皮質)の異常などの要因が複雑に重なって起こっていると考えられています。 月経の異常や不妊の原因となり、まれにLHの上昇の影響で男性ホルモン(アンドロゲン)が増え、男性化徴候(多毛、ニキビ、低い声など)が起きる場合もあります。(欧米では男性化徴候を重視しますが、日本では正常上限程度の症例も多いようです。) |
どんな治療をするの? 手術療法 |
インスリン抵抗性(HOMA-R高値)にメトホルミン治療
インスリン抵抗性(HOMA-R高値)による排卵障害の場合 (インスリン感受性薬剤のメトホルミン: メルビンは有効) 不妊症や月経不順の原因のひとつに糖尿病があります。ですから、糖尿病の女性は月経不順に なりやすいといえます。 なぜ糖尿病の女性は月経不順になりやすいのか、その機序は完全には解き明かされていません。 規則的な月経には規則的な排卵が必要であり、インスリンはその排卵機構にとってとても重要な ホルモンであることが知られています。糖尿病ではインスリンの代謝が障害されることが多いため、 排卵障害をきたす頻度も高いと考えられています。 排卵障害の機序のひとつにインスリン抵抗性が関与していると考えられています。インスリン抵抗性 とは、インスリンの作用が効きにくい状態を示し、2型糖尿病や妊娠糖尿病の基本的な病態です。 インスリン抵抗性は肥満や多嚢胞性卵胞症候群とも関連しています。この両者とも不妊症や月経異常 の原因となります。そこで臨床的に、多嚢胞性卵胞症候群が原因でインスリン抵抗性を示す不妊症の 女性に、治療としてインスリン抵抗性改善薬を投与すると、妊娠率が有意に上昇し、また流産率も減少 することが報告されています。同様に、月経不順を訴える肥満女性に対して、適切な食事療法と 運動療法で体重をある程度減少させると、月経が発来したり、規則的になったりすることがあります。 (宮崎大学 鮫島浩先生) |
HOMA-Rとは、インスリン抵抗指数(HOmeostasis Model Assessment insulin Resistance, HOMA-R) のこと。 HOMA-R値=空腹時血糖値(mg/dl)×空腹時IRI(mU/ml)/405 正常は2以下です。 参考:成人の糖尿病発症例 値 判定3.0以上 インスリン抵抗性糖尿病(IRI値:10 μU/ml以上) 5.0以上 インスリン抵抗改善剤治療の対象例(IRI値:15μU/ml以上) 空腹時の血糖値とインスリン濃度から、以上の計算式によって求める、インスリン抵抗性の程度を示すとされる指数のことです。インスリン分泌が比較的よく保たれている軽症の糖尿病患者さんのインスリン抵抗性を把握する方法として、よく利用されています。この数値が大きいほどインスリン抵抗性が強いと考えられます。正常は2以下です。 インスリンの効きが悪い時の血糖とインスリンに関しては、つぎの3つの場合が考えられます。1、インスリンは普通にでているが、効きが悪いため血糖値が上がってしまう。2、インスリンの効きが悪いため、いっぱいインスリンが出て初めて普通の血糖になっている。3、インスリンの効きが悪いためインスリンがいっぱい出ているのに血糖値も高値。(インスリンも低値で効きも悪いため非常な高血糖になる場合もありますが、難しいので今回は考えないこととします。)これら3つの場合は血糖値あるいはインスリン値もしくは両方とも高値なのですから血糖値とインスリン値の積であるHOMA-Rは当然高くなります。しかもインスリン抵抗性に比例して血糖値やインスリン値は上昇するためインスリン抵抗性が高いほどHOMA-Rは高値となり、HOMA-Rがインスリン抵抗性の指標となり得るのです。 治療法 ①インシュリン抵抗性の原因は、相対的なエネルギー過剰状態であるから、まずは肥満の解消です。もうひとつは運動です。適切な運動療法をおこなえば、たとえ体重が減らなくても、1週間もすればインスリン抵抗性が改善することがわかっています。そこでたとえ体重が減らなくても適度な運動を続けることが大事なのです。 ②インスリン抵抗性改善薬にはPPAR-γ(ペルオキシソーム増殖剤応答性受容体γ)作働薬やビグアナイド系(BG薬)がある。 |
インシュリン抵抗性改善薬
一般名 | 品名 | 血中半減期(Hr) | 作用時間(Hr) | 一日の使用量(mg) |
塩酸メトホルミン | メルビン錠250mg メトグルコ錠250mg メトホルミン塩酸塩250mg | 1.5~4.7 | 6~14 | 250~750 例:1回1錠 1日2回 |
塩酸ブホルミン | ジベトス | 3 | 6~14 | 50~150 |
肝臓に作用して糖新生を抑え,筋肉での糖の取り込みを促進、さらに腸管でのブドウ糖吸収を抑制すると考えられている。詳細な作用機序は不明であるが、分子標的はAMP依存性プロテインキナーゼ(AMPPK)と考えられている。インシュリン抵抗性改善薬であるので、体重は不変から減少傾向となり、食事療法の妨げにならない。かつて副作用である乳酸アシドーシス(乳酸ピルビン酸が蓄積しやすくなるため)に対する懸念からあまり用いられることはなかった。しかし、実際は乳酸アシドーシスの頻度は低いことが英国でのUKPDSでの再評価によって判明した。乳酸アシドーシスを起こしやすい病態、すなわち、肝障害、腎障害、心障害の既往がある患者には使用をさける。塩酸メトホルミンが主流である。塩酸ブホルミンは塩酸メトホルミンに比べて薬効が低く、乳酸アシドーシスを起こしやすいといわれている。2008年現在、インスリン抵抗性のある患者に広く使われるようになりTZDとの合剤も海外では販売されている。
その他の問題点は軽度の胃腸障害であるが、これは一時的なもので少量から開始し、ゆっくりと漸増すれば軽減できる。
発熱時、下痢など脱水のおそれがあるときは休薬する。ヨード造影剤使用の際は2日前から投与を中止する。
*メトホルミン内服中妊娠成立する場合の対応:(産科ガイドラインより)
.わが国ではスルホニル尿素剤(SU),インスリン抵抗性改善薬のメトホルミンとも妊婦 禁忌であるが,海外では第 2 世代 SU のグリベンクラミドやメトホルミンがコンプライ アンス不良例などで使用されることがある.SU は児の呼吸困難が増加する 8)など,現在 でもやや否定的な見解が多い 9)が,メトホルミンについては妊娠糖尿病のコントロールに 用いることができる 9)とするメタ解析があり、インスリンよりも巨大児・新生児低血糖 などを予防できるとする報告もある 10)。ただし,肥満妊婦で有用な効果を示さなかった 11) との RCT もあり,効果の面からも推奨はされない.なお,メトホルミンに起因した重篤な 形態異常などは報告がなく、妊娠初期での内服を拙速に中止する必要はない(CQ104-3 参 照),例えば妊娠初期での内服(糖尿病合併妊婦のほか,不妊治療でメトホルミンが処方される例もある)について血糖値コントロールを悪くしてまでの拙速な中止は逆効果である .