不妊症治療の流れ
当院では基本的に検査と同時にタイミング療法をおこなっていきます。診察や検査の結果をもとに、より患者さんに合った治療内容にかえていくことになります。
大まかな不妊治療の流れ (必ずしもこのとおりの治療になるとは限りません。)
↓ 不妊症の検査
（同時にタイミング指導もおこないます）
↓ ① 検査結果異常なし → タイミング指導
② 検査結果異常あり → 必要に応じそれぞれの原因の治療
↓ タイミング指導 → 人工授精
↓ 体外受精 顕微鏡授精
排卵誘発剤の選択
タイミング法、人工授精における排卵誘発剤の選択：
① 自然周期の排卵はしますが、以下の状況はクロミッドやセキソビットなど排卵誘発剤の使用を検討する。
＊自然周期のタイミング法ではなかなか妊娠しない場合。
＊生理周期不安定、排卵日不安定、予測と確認しにくい場合。
（卵胞の直径が16～18mm小さなうちに早めの排卵あるいは低温相長いの遅めの排卵）
② 排卵誘発剤使い分け：
クロミッドにはエストロゲン作用の他に抗エストロゲン作用も持っている為に、子宮内膜が薄くなる(20～30%)（逆に厚くなる場合もあります）・頚管粘液が減少する(約50%)という副作用がありますが、排卵誘発効果は良いです。
セキソビットは 副作用は少ない為に、自然周期排卵する場合は第一選択しても良いです。しかし、排卵誘発効果はクロミッドに比べでは弱い、PCOs ,高ＬＨ血症などホルモン測定値に異常のある場合は、セキソビットの効果が期待できないので、はじめからクロミッドが選択されます。
＊クロミッドによる治療で排卵するものの妊娠に至らない場合は、頚管粘液・子宮内膜への効果を考慮し、以下の方法を変更することもある。
a) セキソビット
b) HMG-HCG
c) セキソビット（orクロミッド）＋HMG-HCG (HMGは２日１回する場合もある。）
フェマーラ「レトロゾール」
フェマーラ Femara (letrozole) はノバルティスファーマ社の製品名、一般名はレトロゾール。排卵誘発剤としても使用されている。
フェマーラはアロマターゼ阻害薬で女性ホルモンのエストロゲン（E2）の発生を抑え、乳がん細胞の増殖を抑制する効果がある。本来は「閉経後乳癌」の治療薬として保険診療上使用されている。
一方、フェマーラの内服よりE2の生成が抑制され、E2値の低下（Negative Feedback）よりFSHの産生促進され卵胞を発育させることになる。また、フェマーラは卵胞のFSHに対する感受性を高めるとも言われている。
「使用法」
フェマーラは、クロミッドと同様、排卵誘発作用がマイルドなこと。
① クロミッドの排卵効果不十分、
② クロミッドより子宮内膜厚さ不十分の場合、
③ IVFの低刺激法においてクロミッドの代わりにフェマーラ「レトロゾール」を使用することもある。
④ 多嚢胞性卵巣症候群（PCOS）と診断されている方にレトロゾールを使用することにより、クロミフェンを投与するよりも妊娠率が高かったという報告、
⑤ さらにレトロゾールとクロミフェンを併用することで、高い排卵誘発率が達成されたという報告が海外で出ているようです。
「用量」月経周期3日目から5日間経口投与、レトロゾールとして1日1回2.5mg（１錠）をする。十分な効果が得られない場合は、次周期以降の1回投与量を5mg（2.5mg×２錠）
* 延長投与法：レトロゾール抵抗性のPCOS女性において、レトロゾール5mg/日×5日間投与無効の場合に、7日間投与し、再度排卵が起こらなかった場合は次の周期に10日間投与して、良い効果が得られる報告があった。（保険未）
Fertility and Sterility, Volume 119, Issue 1, January 2023, Pages 107-113 Extending letrozole treatment duration is effective in inducing ovulation in women with polycystic ovary syndrome and letrozole resistance. https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0015028222014352
保険適用病名：「生殖補助医療における調節卵巣刺激」と、「多嚢胞性卵巣症候群における排卵誘発」「原因不明不妊における排卵誘発」R4.4～
Femara has been used off-label by fertility doctors since 2001 because it has fewer side effects the Clomid (clomiphene) as well as a lower risk of multiple pregnancies.
In recent research, compare with Clomid, Femara may offer significantly higher pregnancy rates in women with PCOS.
FIRST LINE THERAPY – CLOMIPHENE CITRATE & LETROZOLE BY DR SHASHWAT JANI
HMG / FSH 製剤
代表的なHMG-FSH 製剤
FSH製剤 Follicular Stimulation Hormone
*以下の各情報は御参考まで、項目、価格、保険点数改正、薬価改正など、今後予告なしに変更されることがあります。改めてご了承をお願いします。
① uFSH
精製FSH uFSH注用75/150単位「あすか」（あすか製薬）FSH:LH 含有比 = 1：0.0053
uFSH注用150単位「あすか」バイアル 1548円（白色〜淡黄褐色の塊又は粉末の凍結乾燥製剤）
添付溶解液 1バイアルに対し日局生理食塩液2mL 1管
uFSH注用75単位「あすか」バイアル 1244円（白色〜淡黄褐色の塊又は粉末の凍結乾燥製剤）
添付溶解液 1バイアルに対し日局生理食塩液1mL 1管
皮下又は筋肉内投与
② follitropin α (フォリトロピン アルファ )
ゴナールエフ 皮下注 遺伝子組み換え型 rFSH pen型 メルクバイオファーマ
ゴナールエフ皮下注ペン300IU 薬価11814円
ゴナールエフ皮下注ペン450IU 薬価17529円
ゴナールエフ皮下注ペン900IU 薬価30389円
使用例：d3 300 IU (or 150IU), d4 300 IU (or 150IU), d5 150 IU, d6 150 IU, d7~HMG 150IUへ, ……
在宅自己注射指導管理料：650点、導入初期加算：580点、注入器用注射針加算：130点
注射のしかた（動画）→→→
ゴナールエフ皮下注用７５ vial型 薬価（溶解液付） 2835.00円
ゴナールエフ皮下注用１５０ vial型 薬価（溶解液付）3713.00円
③ follitropin β (フォリトロピン ベータ ) 在庫なし
フォリスチム皮下注［体外受精用］フォリトロピンベータ（遺伝子組換え）MSD株式会社
フォリスチム注300IUカートリッジ 16614円
フォリスチム注600IUカートリッジ 32584円
フォリスチム注900IUカートリッジ 43852円
使用例：同上
④ follitropin delta (フォリトロピン デルタ )
レコベル 遺伝子組換えヒト卵胞刺激ホルモン製剤（r-FSH）フェリング・ファーマ株式会社
レコベル皮下注12μgペン(≒200IU) 10992円／キット
レコベル皮下注36μgペン(≒600IU) 26293円／キット
レコベル皮下注72μgペン(≒1200IU) 45582円／キット
薬物動態：
レコベル12μg＝FSH製剤200IU、レコベル9μg＝FSH製剤150IU、レコベル6μg＝FSH製剤100IU。
レコベル9μg（150IU)皮下注、最高血中濃度達成は20(12-24)時間、血中半減期は36.8±4.8時間。
使用例：レコベルは、患者さんのAMHと体重kgから投与量を設定する。AMHが低いと強い刺激が必要、投与量も多く設定する。逆にAMHが高いとOHSSのリスクも高いにで、より少ない投与量が設定される。又、投与量は治療周期の間に増減することはない。
在宅自己注射指導管理料：650点、導入初期加算：580点、注入器用注射針加算：130点
以上各点数、薬価、費用などは2024年の参考程度、毎年予告なく変更する場合がありますのでご了承下さい。
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ゴナールエフ皮下注ペン300、450、900単位 取り扱いと注射方法の動画：
取扱と注射のしかた | GONALEF (m3.com)
HCG製剤 u-hCG & r-hCG
体外受精の採卵時、まず月経の3日前後からHMGを連日注射して卵胞の成長を促します（HMG＝Human Menopausal gonadotropin,主成分はFSHまたはFSHに少量のLHを含む）。卵胞が直径20mm以上または長短径平均18mm前後まで成長した時点で、hCG注射を行い（hCGはLHと化学的構造に類似し、同じ生物活性を持ちます）、意図的にLHサージを起こして排卵を促します。
LHサージは十分に成長した卵子をさらに成熟させ、受精可能な状態にします。また、卵丘細胞と顆粒膜細胞の分離を促進し、採卵（Oocyte pick-up, OPU）を容易にします。hCG注射から排卵までの時間は約36時間から40時間程度であり、排卵直前に採卵するのが最適なタイミングです。当院では採卵予定時刻（午前中）の36時間前（通常は22時から24時）にu-hCG 5000〜10000単位の注射あるいはr-hCG 250μg（オビドレル）を行います。
「追伸」: HCG注射は卵巣を黄体化させ、黄体ホルモンの分泌を促進し、着床を容易にする作用があります。一方、妊娠初期の絨毛組織はHCG（ヒト絨毛性ゴナドトロピン）を分泌し（5週目から上昇し、8〜10週でピークに達します）、このHCGは、エストロゲン（E2）とプロゲステロン（P4）の産生を促進し、妊娠を維持に重要な役割を果たします。
妊娠検査薬は、妊娠初期の絨毛組織から分泌されるHCGを検出し、尿中のHCGの存在と濃度を測定する検査です。そのため、着床時期前後に着床しやすくする目的で hCG 注射が行われることがあります。この場合、hCGは体内に約一週間残存するため、妊娠していなくても妊娠検査薬が陽性反応を示すことがあります。
オビドレル 自己注射
*以下の各情報は御参考まで、項目、価格、保険点数改正、薬価改正など、今後予告なしに変更されることがあります。改めてご了承をお願いします。
hCG注射には2種類あります：
1.従来の天然型hCGを筋肉注射する（u-hCG: 5,000単位1本、薬価1290円、あすか製薬/持田製薬）
2.オビドレル シリンジ250μg 皮下注射
遺伝子組み換えヒト絨毛性性腺刺激ホルモン（ r-hCG : genetical Recombination Human Chorio Gonadotropin alfa ）メルクバイオファーマが、LH純度の高いペンタイプの自己注射用のプレフィルドシリンジ製剤（250μgを0.5mL、1筒/ 2,906円）を提供しています。
オビドレルシリンジ皮下注射動画
https://www.mbj-fertility-patients.jp/ja/home/ovidrel.html
タイミング法・ 人工授精 AIH
OHSS の予防
OHSS
卵巣過剰刺激症候群（以下、「OHSS」）は、不妊治療において卵巣が過剰に刺激されることにより、卵巣の嚢胞性腫大を引き起こし、全身の毛細血管透過性が亢進して血漿成分が血管外へ漏出する状態を指します。この結果、循環血液量の減少、血液濃縮、胸水・腹水の貯留が生じます。重症例では、卵巣捻転、卵巣破裂、腎不全、血栓塞栓症（肺塞栓症、虚血性脳卒中、心筋梗塞）、肺水腫などの合併症が発生することがあります。OHSSの重症度によっては、高次医療機関での入院管理が必要となり、日常生活に著しい影響を及ぼす場合があります。
OHSSの症状:
下腹部の張り、吐き気、嘔吐: 卵巣が腫れあがり、お腹に水がたまる「腹水」という状態になります。これにより、下腹部が張っているような違和感が続いたり、吐き気や実際の嘔吐が起こることがあります。
急激な体重増加: 腹水がたまることで体重が増加する場合もあります。食生活に変化がないのに急に体重が増えた場合は注意が必要です。
呼吸困難: 胸に水がたまる「胸水」によって呼吸が困難になることもあります。
脱水症状に似た症状: 腎臓の血流が減少し、のどが渇く、尿が少ないなどの症状が現れることがあります。
急激なお腹の痛み: 重症例では、腫れあがった卵巣がねじれて急性腹症を引き起こすことがあります。
血栓症（脳梗塞など）: 血液が濃縮されたり、血液凝固に異常が出たりすることで血栓症が起こることもあります。自覚症状に気づいたら早めに医師に相談することが大切です。
患者側のリスク因子
• 若年やせ
• 多囊胞性卵巣症候群 (PCOS)
• ゴナドトロピン製剤投与量の増加
• 血中エストラジオール値の急速な増加
• OHSS の既往 や 多胎妊娠の既往
• 発育卵胞数の増加と生殖補助医療における採卵数の増加
• hCG 投与量の増加、hCG の反復投与
• 妊娠成立
採卵後OHSS発生の予防
採卵した直後より3種類のお薬を5日間使用することよりOHSSの発生頻度と程度を軽減する。
① カバサール（カベルゴリン） (本来は乳汁分泌を促進するプロラクチンを抑えるお薬) 0.25mg/1T, 2T/2×5日（～8日）2022～保険適応：生殖補助医療に伴う卵巣過剰刺激症候群の発症抑制
② レトロゾール（フェマーラ）2.5mg/1T、 2T/2×5日 （本来は排卵誘発剤）
2023～不妊治療における医薬品の適応外使用に係る保険診療上の取扱い：
診療報酬明細書の摘要欄に記載されている投与の理由：卵巣過剰刺激症候群（OHSS）ハイリスク患者に対する、OHSS 発症予防のためのレトロゾールの使用。 https://www.ssk.or.jp/shinryohoshu/kankeitsuuchi/kankeitsuuchi_r04.files/sonota_r040316_2.pdf
③ GnRH antagonist アンタゴニスト：
a) ガニレスト 皮下注0.25mgシリンジ（or セトロタイド）5日間皮下注、保険可、自我在宅注射可能。
ｂ) レルミナ 1日1回1錠40mgを食前（食事の30分前まで）に5日間内服
（レルゴリクス、本来は子宮筋腫、子宮内膜症治療薬）、保険でのARTでは使用できない(2025～保険適応見込み未定）効果大、採卵後の月経開始が早まります。採卵後に月経が開始するとOHSSは改善する。
** 調整卵巣刺激法において早発排卵予防方法について、GnRH agonist よりも GnRH antagonist の使用がOHSS の発生を軽くする有用性が推測される。
例えば、AFC, AMH 高高値、Hyper-responder の場合に、GnRH agonist を早めに投与する。（ 例えば、予定卵胞平均直径17mmから投与場合に、14mm より早めに投与する。）
