①女性年齢による妊孕力の変化 (卵巣予備能①)
②卵子の生涯発育とFSH, AMH, AFC の役割(卵巣予備能②)
③体外受精の動向~胚の選別と移植の妊娠率(大川ARTの妊娠率)
大川産婦人科・髙砂(大川ART)原著 文責 名誉院長 大川欣栄
体外受精の動向~胚の選別と移植の妊娠率(総説)
アルメイダ医報, 2020; Vol. 45, No. 1, 2-17 に掲載
要 旨
2019年、アルメイダ医報に掲載した「女性年齢による妊孕力の変化」1)にて2018 年の全国出生数は91万8千4百人と3年連続で過去最低数を更新していることを述べたが、2019年の出生数は初めての90万人割れの86万4千人であり、更に少子化が加速している。
少子化の要因は、挙児を希望する女性の減少のみならず、妊娠出産の高齢化による卵巣予備能(Ovarian reserve)2)の低下や染色体異常の増加などによる妊孕力の低下が考えられる。不妊症に悩んでいるカップルは年々増加し、5~6組に1組とも言われている。
不妊症に最も有力な治療は体外受精(ART) であると考えられる。 2017年、日本の不妊治療施設でのARTの治療周期は448,210件、移植周期数は251,279件、妊娠周期数は79,194件、生産周期数は54,997件、生児数は56,617人である。2017年の出生数は94万6060人で、約16.7人に1人はART Babyであり、40人の学級に2.4人の子供はART Babyである。3)
近年、特に日本におけるARTの特徴は高齢者の割合が多い(40歳以上は42%)、凍結移植周期が多い(約80%)、単一胚移植の割合が多い(成果としては多胎率が3%と低い)、胚盤胞移植の割合が高いことである。一方、日本のARTの施行周期数は42万周期と世界各国と比べ、最多(中国は未統計)であるが、高齢者の割合が高く、社会的適応卵子凍結は少ない。更に卵子提供によるARTと着床前染色体検査は、日本では公認されておらず、体外受精や顕微授精などの生殖補助医療の成績は依然と厳しい状態と言える。例えば35歳から挙児の確率は20%(生産率/総治療回数)を切る、40歳から10%以下になり、流産率も40歳以後に急速に増加する傾向にある。3)
体外受精において受精卵の培養過程と移植胚の選別は、治療成績にかかわる重要な要素である。年齢と卵巣予備能(AMH, FSH値やAFCなど)により、採卵数、受精率、胚の発育はそれぞれ大きいな違いが見られる。2)採卵や受精胚の獲得が不可能な症例に対しては、今のところ卵子提供以外に有効な対処法がないのが現状である。初期分割胚まで得られても胚の質が不十分なため胚盤胞までの長期培養を避ける場合はVeeck分類法を用いて移植胚の選別を行う。受精卵を多く獲得し、長期培養により複数の胚盤胞が得られる場合、移植胚の選択に用いられている胚盤胞評価法はGardner分類法である。
大川産婦人科・高砂で2014年から2018年までの5年間に行った、Veeck分類法で胚の評価・移植を行った単一凍結融解分割胚移植428周期、Gardner分類法で胚の評価・移植を行った単一凍結融解胚盤胞移植654周期より、その成績を統計学的に検討した。図5,図9、図10 また、移植胚の形態的、動態的評価と染色体異数性との関係について文献的に考察した。
日本における体外受精近年の動向
① 多胎率
従来の体外受精はほとんど複数胚移植を行い、多胎妊娠例の増加より母体・胎児のリスクが大きくなった。2007年には日本生殖医学会,日本産科婦人科学会が「多胎妊娠防止のための移植胚数ガイドライン」を策定し、単一胚移植(SET, Single Embryo Transfer)を推奨したことにより、多胎率は2000年前後の15%から現在の3%まで低下し、日本はスウェーデンとオーストラリアと並び、安全なARTが提供される国となっている。
② 新鮮胚移植と凍結胚移植 妊娠率の時代的変化
2002年までの妊娠率はほとんど変わりないが、その後、凍結胚移植の妊娠率は大幅に上昇した。2017年 新鮮胚移植の妊娠率は21.4%(妊娠率/ET)、凍結胚移植の妊娠率は34.4% (妊娠率/ET)である。2017年凍結胚移植の施行周期数(n=195,559)は新鮮胚(n=55,720)の3.51倍になり、出生児数は5.62倍(n=46,642/8,355)に達している。現在国内の多くの施設では凍結融解胚移植が移植方法(全胚凍結, Freeze-All)のスタンダードとしている。
③ 生産率(/採卵)
採卵に対する妊娠率は2004年から2017年まで年々低下している。それは女性の平均初婚年齢の上昇し1)、ART治療の主要年齢層も2004年の35~36歳から2017年の40~41歳2)となっていることより、高齢による胚の染色体異常と難治性不妊症の増加が生産率(/採卵)減少の一大原因と考えられる。図1
新鮮胚移植より凍結胚移植の妊娠率が高い理由
❶ 卵巣刺激周期の新鮮胚移植では妊娠成立時に卵巣過剰刺激症候群(OHSS)を発症、重症化するリスクが高くなるので、慎重におこなうべきである。凍結融解胚移植は新鮮胚移植に比べ、OHSSのリスクは低くなり、月経を跨ぐため、子宮内膜環境とホルモンの環境を整えることができ、着床しやすく、流産率が低い傾向にある。
❷ 採卵後そのまま胚移植する新鮮胚移植の場合は、高刺激法により多数の卵胞発育からP4の異常上昇が見られ、子宮内膜の着床準備がずれて、Implantation window(着床の窓)が不安定になりがちであった。それは新鮮胚移植が着床し難い一因と考えられる。凍結融解胚移植では、implantation windowに合わせやすいので、比較高い妊娠率が得られることが知られている。近年ERA検査 (Endometrial Receptivity Analysis)が開発されて、子宮内膜組織の遺伝子レベルを調べて、着床可能な状態に整っているかどうかを確認する方法もある。
❸ 2000年より凍結・融解技術の向上により、凍結融解胚の回復状態が改善され妊娠率が上がっていることが分かった。一般的な臨床現場において凍結胚を選択する際に、凍結と解凍のストレスに耐えられる形態的良好胚、Veeck分類やGardner分類に評価の高い胚を優先して選択されることが多い結果、凍結融解胚移植の妊娠率は2003年より年々と高くなる。逆に、良好胚として選択されなかった胚が新鮮胚移植に用いられることが多いため、新鮮胚移植の妊娠率は年々と低くなると考えられる。図1 選別から除外された胚にも妊娠の可能性はあるため、新鮮胚移植が、凍結融解胚移植に全面的に劣っているというわけではない。
2017年移植ステージ別・年齢別の移植あたり妊娠率の変化
① すべての移植ステージの妊娠率は年齢と共に低下する。
② 凍結胚盤胞 と新鮮胚盤胞 の移植は、各年齢層において、凍結初期胚 は新鮮初期胚 より明らかに高い妊娠率を示している。
初期(分割)胚より胚盤胞移植の妊娠率か高い理由
採卵後培養2~3日目の初期胚に比べ、採卵後培養5~6日目の胚盤胞の着床率が各年齢層において、明らかに高いことが分かった。 Gauravら2017年の報告によると、初期胚(cleavage stage)の染色体正倍数の確率は(形態良好胚 : 40.6% , 形態中等胚 : 29.3% , 形態不良胚:25.8%) に対して胚盤胞の正倍数の確率(形態良好胚 : 73.2% , 形態中等胚 : 50.0% , 形態不良胚:40.5%) が高く、結果として妊娠率は高く、流産率は低く、出産率は高く、児の異常率は低いことになる。4)妊娠率が期待できる胚盤胞移植では単一胚移植を選択しやすいため、多胎妊娠の防止にもつながる。
胚盤胞の培養では、一般的には受精卵/胚培養の流れの中にDay2,3の分割胚/初期胚を形態的に良い(発育が比較的早い)ものを選別し、更に2~3日間を追加培養し、淘汰されない発育順調の胚が良好胚盤胞になる。一連の選別の過程に自然と正倍数染色体の胚盤胞が多く生き残り、妊娠しやすくなる。しかし、高齢や卵巣予備能が低下した患者では、数的もしくは形態的不十分な胚しか得られない場合が多いので、分割胚/初期胚の選別と移植も重要な役割を果たしている。
体内(In vivo)と体外( in vitro )における受精卵の発育過程
排卵、受精してから細胞分裂が始まる。卵管内を通過中に1細胞→2細胞→4細胞→8細胞と分裂する。(2~3日目の4~8細胞は初期胚と言う。)その後、細胞同士が溶け合って融合し、16~32細胞の桑実胚(Morula)となる。細胞は更に分裂し、水を中に取り込んで内腔を形成し、受精してから5~6日目におよそ100~200個の細胞よりなる胚盤胞となる。そのころには卵管を通って子宮内腔に到達する。
体外受精の場合は、採卵により卵巣内の卵子を体外に取り出して、自然受精(媒精)あるいは顕微授精を行い受精、体内の卵管内と同じように体外の培養環境で ( in vitro ) 細胞分裂し、3日目の8細胞前後の分割胚を子宮内腔に移植する。又は、5~6日目の胚盤胞を移植する。
胚盤胞が成長を続けると、胚盤胞の透明帯が更に薄くなって(拡張胚盤胞)、やがて亀裂が生じ、胚は破れた透明帯の外に出始め(脱出胚盤胞)、最終的に殻の外に完全に脱出し(孵化胚盤胞)、子宮内膜に着床する。その後、胎嚢、卵黄嚢、および胎児を形成する。(図3)
体外受精時における受精卵の発育-初期胚の評価と妊娠率の関係
体内での自然な受精と同じように体外受精の受精卵は発育する。その発育過程の中にどの段階、どの形態の受精卵を選択し、子宮内腔に移植すれば、最も妊娠率が高く良い結果を得られるのか、これを追求することが重要な課題となる。胚の評価時期は、受精卵が2~3日目4細胞〜8細胞の「初期胚」の時期、もしくは、5~6日目のおよそ100~200個の細胞よりなる「胚盤胞」の時期である。
Grade 1の胚は細胞の大きさが均等で、fragmentationは0%の胚で一番質がよい胚である。染色体の異常も比較的に少なく移植すれば妊娠しやすい。逆にGrade 5の胚は細胞をほとんど認めず、 fragmentationもかなり著しい胚である。染色体の異常があることが多く、移植胚には適さない。
受精3日目分割胚の細胞数と妊娠率の関係(大川ART5年成績-図5)
Veeck分類のGrade と共に適切な細胞数も妊娠率を大きく左右する。受精して3日目の受精卵は3回の細胞2等分分裂を完成し8細胞となる。大川産婦人科・高砂 の2014年~2018年に行った単一凍結融解分割胚(Day3)移植428周期(7cell~、G1~3、凍結1回を対象胚)の細胞数別臨床妊娠率を検討し、図5の結果が得られた。
全体の約62%の267周期で、8細胞分割胚の移植を行い、最も高い妊娠率31.8%となった。7細胞胚の移植は、約10%の42例で、妊娠率は16.7%と最も低かった。9細胞胚の移植は約11%の48例で、妊娠率22.9%であった。10細胞以上の胚は約17%の71例で、妊娠率は22.5%と、9細胞胚と同等であった。
胚盤胞の評価法と妊娠率の関係
胚盤胞のICMとTE細胞の分化とES細胞
受精4日目桑実胚の時期において、外側の細胞のみにCdx2が高頻度にみられる。Cdx2は胚の細胞を栄養芽層への分化誘導因子である。将来胎盤を形成する細胞である栄養外胚葉(TE, Trophectoderm)を外側に、将来、胚体を形成する多能性細胞集団である内部細胞塊(ICM, Inner Cell Mass)を内側に持つ、胚盤胞と呼ばれる形態を形成する。又、着床直前の発生段階に外側から内側へと移動した細胞ではCdx2の発現は徐々に抑制され、最終的には元々内側にいた細胞と協調して内部細胞塊を形成し、多能性の細胞集団に発育する。(図6)(図7)
胚性幹細胞 ES cells (Embryonic stem cells)
受精卵と分割胚は個体を作りだせるすべての細胞への分化能力を持っており、全能性(totipotency)と呼ばれる。胚盤胞には、体を構成する全ての組織細胞や生殖細胞に分化できる未分化な幹細胞があり、多能性幹細胞(pluripotent stem cells)と呼ぶ。一方、原腸胚の、体性幹細胞の多くは生殖細胞以外の組織細胞に分化できる限定的な多能性をもち,multipotent stem cellsに分類されている。胚盤胞の内部細胞塊ICMを取り出し培養したものが、身体のあらゆる細胞に分化する能力を持つことで再生医療の分野で注目を浴びた。いわゆるES細胞と呼ばれるものである。一方、栄養外胚葉は胎盤や羊膜などの胚外組織に分化していく。図6、図7、8)
胚盤胞の評価法・Gardner 分類
受精4日目32細胞の桑実胚(Morula)から更に細胞は分裂し、水を中に取り込んで胞胚腔を形成し、5~6日目におよそ100~200個の細胞の胚盤胞となる。胞胚腔は拡大しつつ、内細胞塊と栄養外胚葉それぞれの細胞数も増殖していく程妊娠率が高くなる。従って胚盤胞の形態的評価は移植着床の成否には大事な課題になる。 Gardnerの分類(1999年)は,胚盤胞のステージを6段階に,さらにICMおよび Trophectodermの形態を3段階に分類する.移植胚が3AA以上,すなわち胞胚腔が胚全体に及び,ICMが多数の細胞より形成され密集し,栄養外胚葉も多数の細胞からなり、その結合が密である胚盤胞を移植すると,その妊娠率が高率となることが報告されている。(図8)
胚盤胞(Day5,6)形態的評価と妊娠率の関係
胚盤胞は発育するにしたがい胞胚腔が大きくなり、孵化する。Gardner 分類では、その発育段階をStage 1~6に分類する。そのうち、Stage 3以上の胚盤胞は、さらにGradeとして、内細胞塊と栄養外胚葉の細胞数によってA〜Cに細分類する。内細胞塊ICMは将来胎児になる部分で、細胞数が多く密であるほど良いとされている。栄養外胚葉TEとは将来胎盤になる部分で、細胞数が多く密であるほど良いとされる。Gardner 分類では、発育段階(胞胚腔の大きさ、Stage1~6 )と内細胞塊、栄養外胚葉の細胞数(Grade A.B,C)により分類する(図8)。Stage の数値が高く、AAに近いものが質の高い胚盤胞である可能性が高く、染色体異常の頻度低く、着床率が高いと言われている。基本的にStage 3以上、3BB以上を良好胚と判断し移植の対象としている。
今回、大川産婦人科・高砂 2014年~2018年の計5年間で培養5~6日目の胚盤胞を凍結し、別のホルモン補充周期に単一融解胚移植した、654周期の臨床妊娠率を解析した。移植胚は、Gardner分類Stage 3以上、凍結1回、Grade Cも対象胚とした。
胞胚腔拡張Stage別(図9)臨床妊娠率及びICM/TE Grade別(図10)臨床妊娠率を検討し、以下の結果が得られた。
胞胚腔拡張Stage別臨床妊娠率(大川ART5年成績-図9)
Stage 3の周期は総数の約17%、110周期、妊娠率は35.5%であった。Stage 4 の周期は総数の約80%、520周期と高いウェイトを示し、妊娠率は47.1%であった。この成績はStage 3 の妊娠率 より有意に高かった(Chi-square test、p < 0.05) 。 Stage 5 の周期は総数の約4%、24周期で、妊娠率は58.3%と最も良い結果になった。この成績はStage 3 の妊娠率 より有意に高かった(Chi-square test、p < 0.05) 。Stage 6 に該当する周期はなかった。全654周期の妊娠率は45.6%であった。
内細胞塊ICM/栄養外胚葉TE Grade別臨床妊娠率(大川ART5年成績-図10)
Grade AA の周期は総数の約44%、287周期と最も多く、妊娠率は55.7%と最も高い成績である。Grade AB,BA の周期は総数の約38%、247周期で、妊娠率は38.9%である。Grade BB の周期は総数の約17%、114周期で、妊娠率は36.0%である。Grade <BBの周期は総数の約1% 6周期とごく少数で、妊娠率は16.7%であった。 Grade AA の妊娠率55.7%はGrade AB,BA の妊娠率38.9%より有意に高いことを示した (Chi-square test: χ2=15.16 , p < 0.001 ) 。又、 Grade AA の妊娠率55.7%はGrade BB の妊娠率36.0% より有意に高いことを示した(Chi-square test: χ2=12.77 , p < 0.001) 。
考 察
今回の単一凍結融解胚移植において、Day3分割胚移植では、Veeck分類 Grade3以上の8細胞胚の移植は最も高い妊娠率31.8%が得られた。一方、Day5,6の胚盤胞移植では、Gardner分類で、胞胚腔拡張が大きければ移植の妊娠率も高くなり、(Stage 3,4,5 : 36.1%,46.7%,53.8%) 内細胞塊ICM/栄養外胚葉TEの Grade選別からICM細胞、TE細胞が多くで密であれば移植の妊娠率は高くなる傾向にあった。この結果から、移植胚の選別方として、分割胚移植ではVeeck分類法、胚盤胞移植ではGardner分類法が、簡便で有用な方法であることを再認識できた。
女性の年齢と胚の染色体異数性
ただし、Gardner分類5AAの胚であっても妊娠率は100%ではなく、本研究では妊娠率59%にとどまっており、約4割の胚は妊娠に至らなかった。その主な要因は胚の染色体異数性の存在が考えられた。女性の年齢が上昇すると胚の染色体異数性aneuploidy の発生率は上昇し、着床率は下降し、流産率、児の染色体異常のリスクも増加する。2014年Jason M.らは15,169個胚盤胞の栄養外胚葉 (Trophectoderm)細胞生検より女性年齢と胚染色体異数性の関連を調べたところ、胚染色体異数性は30歳の20%台から急激に上昇し、44歳には約90%に達している。図11、9)
胚盤胞の胞胚腔拡張速度と染色体異数性
2011年Samerら10) は全Gradeの胚盤胞において、染色体異数性の胚は半数以上を占めることに着目した。胚の成長が遅く、Gradeが小さい程に染色体異数性の確率と重症度が著明になる。図12、10)一つ興味を感じるのは、成長の早い胚(Grade 5,6)の異数性胚のうち、Trisomy/Monosomy(=1.7) の比率は他群より高く、Trisomy(3倍体は一部生存可能) はMonosomy(単倍体は致死的) より予後が良いことから、妊娠率は更に高いと考えられる。逆に、発育の遅い胚(grade ≤3)の重症染色体異数性(2本と3本以上染色体に及ぶ異数性)は発育良好胚(grade 5、6)の重症染色体異数性の2倍以上と分かった。従って胚盤胞の形態的評価分類は染色体正倍数性や各種異数性の出現頻度と密切な関係があるとみられる。10)(図12)
胚の選別要件
染色体正倍数性(euploidy)の胚移植は正常な妊娠、出生に必要不可欠な要素である。
着床前染色体異数性検査は、Mosaicismの問題について議論が残るが11)、2018年アメリカ生殖医学会(ASRM)のcommittee opinionがPGT-A( PGT-A : Preimplantation genetic testing for aneuploidy)について、単一胚移植による妊娠率や生産率を向上させ、多胎の発生を低下させる;38~41歳の高齢女性に対しPGT-Aの有用性;1人の子どもを獲得する胚移植回数も少なく、妊娠までの期間も短縮することを確認した。12)反復着床失敗と流産にもたらす女性の身体精神的負担を軽減する為に、着床前染色体異数性検査(PGT-A)は10年以上から欧米で行われている。現在、海外では86%の国でPGT-Aを実施可能であるが、残念ながら日本では倫理的問題で臨床応用は認められていない。
分割胚、胚盤胞の形態的評価は、妊娠率を推測するための簡便な方法であるが、十分とは言えない。近年、受精卵、培養器内の密封された環境で連続的に胚を顕微鏡下に撮影するTime-lapse cinematographic incubatorが、開発・導入され、胚の形態変化を、精細かつ連続的に観察することが可能となっている。従来、胚の形態評価のために、培養器の中から一時的に取り出さなければならず、その際、多少なり胚周囲の環境変化が起きるため、ストレスを与えるリスクがあった。Time-lapse cinematographic incubatorにおいてはそのリスクをなくすことができる。また、連続的な胚の動態観察により卵細胞質内の異常、前核消失時間,各卵割時間,異常分割の有無など,胚盤胞に至るまでの途中経過のパラメータを包括的に活用し、13)14) 15)より効率的に染色体異常を予測し移植胚を選別することで、妊娠率と生産率の向上を期待できる。現在、当院でもEmbryoScope time-lapse system (Vitrolife社 )を導入している。今後、同システムの運用による成績の変化について検討していく。
大川産婦人科・髙砂(大川ART)原著 文責 名誉院長 大川欣栄
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参考文献
1 大川彦宏, 大川欣栄, 有村賢一郎, 他:女性年齢による妊孕力の変. アルメイダ医報, 2019; Vol. 44, No. 1, 2-10
2 大川欣栄, 有村賢一郎, 大川彦宏, 他:卵子の生涯発育とFSH, AMH, AFCの役割. アルメイダ医報, 2019; Vol. 44, No. 1, 11-19
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conditions. Eshre 34th Annual Meeting, Barcelona, Spain, July 2018
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英文総括
The Current Trends in In Vitro Fertilization: A Focus on the Relationship between Embryo Morphologic Evaluation and Pregnancy Outcome (Review)
SUMMARY
In vitro fertilization (IVF; ART: Assisted Reproductive Technology) is highly effective for infertility. In Japan in 2017, 448,210 ART cycles (most worldwide), 251,279 embryo transfers, 79,194 pregnancies, and 56,617 live births occurred. Every class of 40 schoolchildren comprised 2.4 ART-produced babies.
In the last two decades, some current trends are recognized in Japan ART. Per the 2017 data book of JSOG (Japan Society of Obstetrics and Gynecology), there are 42% of patients undergoing ART were aged >40 years; frozen-thawed blastocyst transfer was performed in >80% , with a higher single-embryo transfer rate (>90% when aged <35 years and >80% when aged <43 years) , lowering the multiple pregnancy rate down to 3%. Most ART centers prefer transferring blastocysts rather than cleavages to achieve higher pregnancy rates. On the other hand, mature oocyte cryopreservation, donor egg IVF, and preimplantation genetic testing for aneuploidies (PGT-A) remain restricted in Japan due to conservative ethical considerations, laws, and regulations.
A study included patients who received frozen-thawed single cleavage transfer (n=428) and blastocyst transfer (n=654) at our Okawa ART Center was performed between Jan 2014 and Dec 2018. The Day3 cleavages and Day5-6 blastocysts were morphologically evaluated per Veeck and Gardner grading system respectively. The pregnancy rates of frozen-thawed single cleavage transfer were 16.7% in 7-cell (n=42), 31.8% in 8-cell(n=267), 22.9% in 9-cell (n=48) and 22.5% in ≥10-cell (n=71).
The clinic pregnancy rates of frozen-thawed single blastocyst transfer, per the blastocoel expansion stage, were 35.5% at stage 3 (n=110), 47.1% at stage 4 (n=520) and 58.3% at stage 5 (n=24). The pregnancy rates at stage 4 and 5 were significantly higher than that at stage 3. (Chi-square test, p<0.05, p<0.05, respectively). The overall pregnancy rate for 654 cycles was 45.6%.
Meanwhile, per the ICM and TE cells grading, the pregnancy rates were 55.0% in grade AA (n=289), 38.9% in grade AB and BA (n=252), 35.7% in grade BB (n=112) and 16.7% in grades lower than BB (n=6). The pregnancy rate of Grade AA was significantly higher than that of Grade AB, BA (Chi-square test: χ2=14.04, p < 0.001) and significantly higher than that of Grade BB (Chi-square test: χ2=12.03, p < 0.001).
Our study demonstrated a reliable but indefinite relationship between the embryo morphologic evaluation and Pregnancy Outcome. A combination method based on traditional morphologic evaluation, morphokinetic evaluation using Time-lapse cinematographic incubator (e.g., Embryoscope, Vitrolife®), and PGT-A (preimplantation genetic testing for aneuploidies) should be proposed in selected cases for better pregnancy outcome.