私の妊娠カレンダー

妊娠中のお食事 ママ教室用

妊娠悪阻 総論

妊娠悪阻は,制御不能の嘔吐より脱水,体重減少( > 5~10%)、尿中ケトン体(ケトーシス)、電解質異常、軽度の一過性甲状腺機能亢進症*を引き起こすことがある。

原因:Estrogen, β-hCG値の急激な上昇。
嘔吐は通常妊娠5週頃に発生し,9週頃にピークを迎え,16~18週に消失す。

検査:尿中ケトン体,血清電解質,および肝腎機能の測定。

治療:必要時経口摂取の一時的な中止,その後徐々に再開する場合もある。また、必要に応じて輸液,チアミン(Thiamin, Vit.B1:ウェルニッケ脳症とLactac acidosis の予防),ビタミンB6(Pyridoxine, つわりの症状を緩和する),マルチビタミン,電解質, 制吐薬(母子に有害事象は報告されていないが、..プリンペランは国内広く使用されている。)など。

重症時:妊娠16~18週を過ぎても持続する妊娠悪阻はまれであるが,肝臓障害を与え,重度の小葉中心部の壊死,または広範な脂肪変性,およびウェルニッケ脳症または食道破裂を引き起こすことがある。

(ジアイナミックス:ビタミンB1・B6・B12複合剤)
(プリンペラン:消化管中枢に作用し、消化器の機能的反応ないしは運動異常の改善によるものです。中枢性の嘔吐、末梢性の嘔吐いずれに対しても効果を発揮するとされています)

*軽度の一過性甲状腺機能亢進症    妊娠初期一過性甲状腺機能亢進症と妊娠時発症バセドウ病との鑑別が必要です。妊娠初期一過性甲状腺機能亢進症は妊娠7〜15週にピークを示すヒト絨毛性性腺刺激ホルモン(hCG)が、甲状腺ホルモンの合成・分泌を促進することにより出現します。文献よりhCG濃度が50,000 – 75,000IU/Lを超えると甲状腺ホルモン過剰産生、200,000以上ではTSH値が抑制される。(上條桂一先生)

妊娠悪阻 各論

定義

妊娠5~6週ごろより一過性に悪心・嘔吐、食欲不振、食嗜変化などの消化器症状は 「つわり」 morning sicknessと呼ばれ、妊娠の成立に伴う生理的変化で、全妊婦の50~80%に出現し、妊娠12~16週ごろにはほとんどが軽快する。
この「つわり」の症状が悪化し、食事摂取困難となり、栄養・代謝障害を来たし、体重減少のほか様々の症状を呈し、治療を必要となった状態を「妊娠悪阻」hyperemesis gravidarumといい、全妊婦の0.5%前後に発症する。

分類

つわりと妊娠悪阻との区分は不明確であるが、症状の程度より妊娠悪阻を以下の症状を参考し分類します。

軽症妊娠悪阻
・悪心・嘔吐を主徴とし、食事摂取が困難となる。
・脱水症状(口喝、皮膚乾燥)が出現し、吐物に胆汁や血液が混じることがある。
・体重減少、倦怠感が生じる。
・尿中ケトン体、ウロビリノーゲンやウロビリン、尿たんぱくの陽性

中等症妊娠悪阻
・著しい体重減少(-5~-10%)・皮膚乾燥が出現し、尿量が減少する。尿中ケトン体(2+~)
・頻回苦しい嘔吐、食事摂取不能、強度全身倦怠感、頻脈、発熱、軽い黄疸が出現する。
・電解質(Na,K,Cl)異常と血清蛋白の減少を認める。

重症妊娠悪阻
・肝機能障害、黄疸を認める。
・ケトーシス、代謝性アシドーシスが出現する。
・意識障害(失見当識、健忘、傾眠、せん妄、幻覚)、眼振・眼球運動障害、難聴・耳鳴り、小脳性運動失調など脳症状(ウエルニッケ脳症)が出現する。
・胎児死亡および多臓器不全による母体死亡に至る場合がある。

評価・診断

妊娠悪阻の検査:

① 血液検査(入院中は週に1回程度):
Ⅰ. ヘマトクリット値↑、尿量減少、濃縮尿により血液濃縮、脱水の程度を確認する。
Ⅱ.  電解質をみることにより嘔吐に伴う電解質バランスの変動(Na↓、Cl↓、特にKを要注意!)を確認する。
Ⅲ. 中等症以上では肝機能、腎機能の異常、甲状腺機能の亢進(FT3↑、FT4↑、TSH↓、抗体陰性、無症状は一般的)を認めることもあり、脱水に伴う血栓症のリスクも亢進するので凝固系の検査も行う。

② 尿中ケトン体のチェックにより飢餓状態の程度を把握する。陽性となれば悪阻と診断し、強陽性(2+~3+以上)となれば入院管理が必要となる。入院中は数日毎に検査する。体重も数日毎に測定する。
・体重測定:5%以上の体重減少を認めれば入院治療を検討し、10%以上の体重減少は強く入院治療をお勧めする。
・ビタミンB1欠能によるウエルニッケ脳症による神経症状は不可逆性の深刻な合併症であり、重傷者には神経学的徴候がみられないか注意を払って観察する。

治療

  • 食事療法:自分の好みにあった食事や消化の良いものを摂取することを指導する。空腹、満腹は症状を増悪させることが多いため、食事を少量ずつ頻回(5~6食)に接種することを指導する。食事摂取が困難な場合にはスープ、ジュースなど水分補給とカロリー確保につとめる。
  • 妊娠悪阻で入院するようなケースでも絶食とする必要はない。入院後の12時間絶食でも経口摂取継続でも症状の経過には変化を認めない(Tan PC et.al.BJOG.2020Apr 30)。
  • 輸液療法:軽症の妊娠悪阻には尿中ケトンの陰性化まで輸液を行う。経口摂取できていない場合は。1日あたり2000~3000mlの補液で、水分、カロリーと電解質の補充を行う。とくにウエルニッケ脳症発症予防のためにビタミンB1(100mg/day以上)の投与は必ず行う。電解質補充の観点から、ラクテックG輸液よりKN3B輸液の方が効率的。

治療に抵抗し、中等症以上の症状が出現するか、絶食期間が長期に及ぶ場合は脂質を含む高カロリーの中心静脈栄養を検討する。

薬物療法:中枢性制吐薬としてメトクロピラミド(プリンペラン)を投与することは可能である。また、漢方薬では小半夏茯苓湯、半夏瀉心湯、五苓散などが用いられる。

妊娠悪阻入院中検査例

①血液検査:血一般、生化学(週1回程度)、甲状腺機能(必要時)
②体重と尿一般(一日回数、濃縮尿褐色尿の目視)(週2回程度)
③胎児超音波 (週1~2回程度)
④その他必要時、凝固系、CPK、神経系検査、など。

新型出生前診断を実施している医療機関(九州)

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