サイトメガロウイルス
厚生労働省研究補助金:平成20〜22年度における成育疾患克服等次世代育成基盤研究事業「全新生児を対象とした先天性サイトメガロウイルス感染スクリーニング体制の構築に向けたパイロット調査と感染児臨床像の解析エビデンスに基づく治療指針の基盤策定」(研究代表者 故藤枝憲二教授、3年目古谷野伸講師)1, 2)、および平成23年度からの「先天性サイトメガロウイルス感染症対策のための妊婦教育の効果の検討、妊婦・新生児スクリーニング体制の構築及び感染新生児の発症リスク同定に関する研究」より参考抜粋。
疫学
*全国の産科施設のうち、2011年時点で4.5%が妊婦健診でCMV抗体検査を行っていました。
**疫学 従来、日本のCMV抗体保有率は欧米諸国に比べて高く、乳幼児期にほとんどの人が感染を受けている状態が続いていました。しかし、最近ではその状況に変化が認められ、妊娠可能年齢の女性におけるCMV抗体保有率は90%台から70%台に減少しています。このことは、乳幼児期に初感染を受けずに成人となり、伝染性単核症や妊娠中の感染により先天性CMV感染症患児を出産する頻度が増加する可能性があることを意味します。
感染経路
感染経路 母乳感染や尿や唾液による水平感染が主な経路であり、産道感染、輸血による感染、性行為による感染なども認められています。初感染を受けた乳幼児のほとんどは無症状感染を経験し、その後数年にわたって尿や唾液中にウイルスを排出します。これにより、保育園などで子供同士の密接な接触によって感染が広がったり、ウイルスを含む尿との接触によって感染が起こることがあります。また、既感染の女性は母乳中にウイルスを排出しているため、母乳も感染源となり得ます。
妊婦サイトメガロウイルス感染の検査
*妊娠初期にCMV IgGを測定し、抗体陰性の妊婦に対しては妊娠中の初感染予防のための啓発教育を行います。そして、妊娠後期にIgG再測定を行い、妊娠中にIgGが陽性化した初感染妊婦を同定します。出生児の40%は先天感染に至るため、新生児の精査や感染児のフォローアップや治療を行う。
**CMV IgM 陽性となった場合、妊娠中の初感染が疑われますが、実際に本当の初感染であるのは、IgM 陽性者の約30%とされており、それ以外の場合は偽陽性の可能性があります。IgM 陽性またはボーダーラインの場合、IgG avidity 測定を行い、低値(例えば≦35%)であれば初感染が強く疑われます。
妊娠16〜18週の検査で、全妊婦の70%がCMV IgG 陽性となります。CMV IgG 陽性者の約4%が IgM 陽性となります。また、CMV IgG 陽性者の約5%が IgG avidity ≦ 45%であり、2〜3%が IgG avidity ≦ 35%となります。
妊娠初期から妊娠16〜18週の検査で、全妊婦の30%が CMV IgG 陰性です。CMV IgG 陰性者の1.5%が、妊娠後期に抗体陽性化することがあります。つまり、妊娠後期に初めて抗体が陽性となり、妊娠中のCMV初感染が疑われるのは、全妊婦100人中約0.5人程度です。
超音波検査 羊水CMV DNA検査
*脳室拡大、小頭症、頭蓋内石灰化、腹水、肝腫大、胎児発育遅延などの所見がある場合、先天性感染の可能性が高いため、超音波検査が行われます。異常所見がある場合、羊水検査によって胎児感染の有無が高い確率で判定できます。
**羊水CMV DNA検査は、先天性感染の有無をほぼ判定することができます。
免疫グロブリンによる胎児感染予防と胎児治療
- 胎児感染予防 Nigroらは、妊娠21週未満でCMV初感染をした母体に対して、免疫グロブリンを静脈内投与することで、分娩まで毎月投与した結果、先天性感染の発生率は16%(6/37)となりました。一方、無治療群では40%(19/47)でした。
- 胎児治療 症候性の先天性CMV感染に対する抗体高力価免疫グロブリン胎児治療は、1995年に世界で初めて日本で実施されました。2005年9月には、Nigroらによって、免疫グロブリンを母体に静脈内投与することで胎児治療を行う方法(一部の症例では羊水腔内投与や臍帯内投与と併用)が発表されました。羊水中でCMVが確認された母体に免疫グロブリンを静脈内投与することで、症候性感染の発生率は3%(1/31)となりました。無治療群では50%(7/14)でした。ただし、この研究は二重盲検比較ではありませんでした。この治療法は、出生児の障害発生を抑制する可能性があります。
小児難聴の原因 : 先天性サイトメガロウイルス感染症
[こ成母第277号令和5年10月3日]
今般、小児難聴の主要な原因の一つである先天性サイトメガロウイルス
感染症について、
・医師主導治験の成果により、症候性先天性サイトメガロウイルス感染児に対して早期に抗ウイルス薬による治療を実施することにより、難聴の進行を抑制する新たな知見が示され、当該抗ウイルス薬が、症候性先天性サイトメガロウイルス感染症に対する治療薬として初めて保険適用されたこと
・関連する診療ガイドライン等において、新生児聴覚検査の確認検査でリファー(再検査)になった場合、生後 21 日以内に先天性サイトメガロウイルス感染症の検査を行うことが強く推奨されていること
妊婦感染予防パンフレット
神戸大学産婦人科